ベッドから降りて、目の前にいる彼女へと手を伸ばした。冷たい肌のその先にある温かさを求めていた。
腕の中におさめた彼女のからだは、俺が思っていたよりも、ずっと小さくて。
「…お、うみ…」
「…嫌なら、言って」
ただの、なんの変哲も無い俺の部屋。ロマンチックな場所でもなんでもない。加えて、ただの部屋着。そして風邪をひいてしまっている身体。
トクベツなことなんて何1つないのに、茶々は小さく首を横に振って、そのままでいてくれた。
「…茶々、」
「…は、はい」
「ふっ…。なんで敬語」
かっちりと固まっていた身体。たぶん、ものすごく緊張しているのだと思う。
「…残念。背中を追いかけてきてたのは、俺の方だよ」
「…っオーミ…、」
「ずっと、お前だけが欲しかった」
溢れ出るように、茶々の目からはまた涙が生まれた。拭えきれないと思った俺は、そのままぎゅっと、彼女の身体を抱きしめていた。
だんだんと伝わってくる、茶々の体温。やっぱり、風邪をひいている俺よりも、少し低い気がした。
「っあ〜もう…、うれしい…」
「……そ、そんなに…?」
「当たり前じゃん…。会った時から欲しかったし」
「遊んでたくせに」
「それは、あの時の俺が弱かった。お前に振り向いてもらえなくて、ムシャクシャしてた」
ごめんな、と、少し腕を緩めて茶々の方を向くと、彼女の顔は今まで見たことがないくらい真っ赤だった。
あまりにも赤いその顔に、思わず息を吐いて笑ってしまった。
「ちょっと! 何笑ってんのよ!」
「ふ…っ、ごめ…っ。面白くて」
「はぁ〜〜!?」
茶々が、こーいうのに弱いんだってこと、初めて知った。
「知らない!やっぱ近海なんてきらい!」
「はいはい。そんな怒ってももう知っちゃったから全部かわいいよ、迫力ないよ」
「なっ…」
さらに、赤さを増す。それをまた笑うと、彼女からは頭頂部を叩かれた。痛かった。
でも、しあわせの痛みだった。



