「なぁ、茶々」
この短時間で、俺の心臓はお前に握りつぶされて、小さく消えて無くなってしまうんじゃないかって思ってるよ。
「…俺はね、お前が俺の前だけで弱いところを見せてくれるのが、トクベツだったんだよ。ずっと、守りたいって思ってた」
「え…?」
「お前にとっても、トクベツになればいいのにって思ってた」
そんな世界が存在することなんて、絶対にないんだと言い聞かせて生きてきた。
「…茶々が、近海の前で、甘えること…?」
「うん、そう。それが茶々にとってトクベツになればなって」
「…」
「…俺のことすきで、泣いちゃえばいいのにって」
包んでいた顔が、ぐにゃりと歪んだ。また、次々と生まれてくる雫を、一粒も逃したくなかった。
全部、俺がすくってやりたかった。
「…ねぇ、どーして泣いてんの、茶々」
「……っ、だって…」
「うん、言って」
じっと、彼女を見つめる。また、ひくひくと上下を始める肩は、少しだけ震えていて。
すぐに抱きしめてやりたかったけど、それを我慢して彼女の言葉を待った。
じっと見つめすぎたかなと思っていたら、茶々はぎゅっと、目を閉じた。その時には、包んでいた俺の手のひらに、冷たい指先が添えられていた。
そして、その小さなくちびるを、動かしていく。
「…茶々、も…」
「…うん」
「…茶々も、同じだと思う…っ。近海のこと、すきだと思う……っ」
「……うん、」
「もう、背中だけを追いかけるのは、いやだよ…っ」
———こうして、世界は生まれるんだと思った。
珠理が言っていたことが分からなかった自分が、遠くなっていく。
今まで絶対に交わらなかった、平行だった糸は、いつのまにか角度を変えて、今やっと、結ばった。
やっと、やっと、繋がることができた。



