茶々の言葉に、こんなにも揺さぶられている自分は初めてだった。
彼女の言葉1つで、天国にも地獄にも行っていたのに。まだ、こんなにも心臓を掴まれるほどの威力があるとは。
「近海が…っ、大学生になって、知らない土地で知らない学校に行ってるの、寂しかった…っ。」
「…!」
「知らない友達ができて、でも珠理とかめごとは頻繁に会ってて、バイトも始めて、バイトでの知り合いもできて…っ。茶々の、知らない人たちが、たくさん、いて…」
「…」
「近海の世界が、知らない間に…ちょっとずつ変わっていくの…、こわかった。近海が、遠くに…行くみたいで、こわ、かった」
…茶々の肩が、少しずつ上下に動く。
途切れ途切れに聞こえるその声は、今まで以上に震えていて。
じっと俺を見ていた目は、今はもう、ギュッと閉じられていて。
…ただ、ぼーっと、その奇跡のような言葉を、聞いていた。
「茶々から…どんどん遠くなってたと思ってたのに…っ、近海は、近海が、怒りながらだけど、茶々にすきって言うから、」
「…っ」
……あぁ、心臓が、いたい。
「…近海が言ったすきって、どういうことか、分からなくて…っ。近海が、どうしてそんなこと言ったのか、分かんなくて…っ。すきの意味、わかんなくて、どうしてって…」
ぽろぽろと、溢れ出して頰を流れ出した雫は、キラキラと光っていて、とても綺麗だった。
それを、こぼしたくなくて、ちゃんと救ってあげたくて、思わず、握っていた手のひらをそっと解いて、その震えている小さな顔を包みこんだ。



