下唇をきゅっと噛んで、眉毛を下ろして声を押し殺すのは、茶々が何か溜め込んでいる感情を抑えている時。

…珠理のことで泣いている時と、同じ顔だ。それ以外の場面でも、不安な時はよくこんな顔をする。


思わず、手を掴んでいない方の手で、頭に触れた。
ポン、と着地した俺の手のひらに、茶々は少し目を開いて。

…そのまま、俺の方を向いた。


「…オーミ…」

「ん?」


いいよ。なんだって受け止める。今までだって、そうしてきたんだから。
傷ついているのは慣れてる。どんなことを言われても、俺は大丈夫。

そんな想いを込めながら、手のひらを動かす。艶々の黒髪が、吸い付くように触れた。


「…茶々ね…、」

「うん」

「あたしね」

「…うん」


不安そうな顔。揺れる瞳。俺にしか、見せない顔。

…いいんだ。これが、茶々の“ トクベツ” じゃあなくても。




「…茶々、今心の中に、“ どうして ” って気持ちが溢れかえってて、自分の心が分かんなくなってる……」


「……え?」


覚悟を決めて、彼女を見つめていたのに。

返ってきたのは、予想とは違う言葉だった。



「…分かんないの。この間から、ずっと色んなことをたくさん、たくさん考えて、溢れて、多すぎて、分かんなくて」

「…うん」

「どうしてって思うことが多すぎる。ひとつひとつ口にしてたら、近海が疲れちゃうと思う…」


握っていた手に、ギュウっと力が入った。少しだけ伸びていた爪が食い込んで、痛いくらい。

それと同時に、俺の心臓にも、何か食い込むような痛みが広がる。

…痛い。 でも、心地いい。