「…なんなんだよアイツは。台風か」


親友がいなくなった部屋は、ひどく静かだった。

まったく、風邪をひいているというのに、散々だ。来てくれて色々してくれるのは、ありがたいけど。


「…あ。鍵」


珠理が出て行って、部屋の鍵が開けっ放しだということに気づく。
それを閉めないと、さすがにゆっくり眠れない。鍵をかけてこないと。


再び、ゆっくりと身体を起こした。頭痛は少しマシになっていた。まだ少し、フラフラするけど。

廊下を歩いて、ひんやりとした空気に包まれた玄関に到達した。



…その時だった。



ピンポーン


「……」


再び、インターホンが鳴ったのは。


「……はい」


本当は、リビングにあるモニターで確認してから開けるんだけど。まぁいいかと思った。どうせ、珠理が忘れ物かなにかをして、戻って来たんだろうと、そんなことだと思っていたから。


…だけど、違った。



「……近海…っ」


目の前には、長身の男でもない、宅急便のおじさんでもない。

黒く長いサラサラの髪を、2つに結んだ小さい女の子が立っていた。


「……茶々?」


珠理に貼られた冷えピタが、力なくペラリと剥がれたのを合図に。



玄関のドアが、バタンとしまった。



いつのまにか、その小さな身体は、まるで引き寄せられたように、俺のすぐ近くにあった。

これは、現実じゃない。夢だと思った。


だけど、すぐ近くにある体温は、暖かかったから。


きっと、本当なんだ。