珠理は、俺の方をじっと見ていたけど、にこっと一度だけ笑って、目を逸らした。

スマホを触りながら、再びフルーツを口に運ぶ。

…さすが、長年の片想いを実らせた奴は違うな。余裕がありすぎる。



「近海、ちょっとは薬効いてきた?」


ぼーっとそんなことを考えていると、珠理は目の前の放っておかれた食器を片しながら言った。

フルーツは、まだ半分くらい残っている。


「アタシ、このお皿きれいにしたら、そろそろお暇するわ。 そのフルーツ、喉が乾いたときにでも食べちゃって」

「はっ? いいよ、皿は置いといて」

「いーの! 包丁とか使っちゃったし、それを片付けるついで。 近海はほら、ちゃんと横になって」


キッチンから、厳しい顔が向けられる。もう親友を通り越して母ちゃんだ。なんなんだ、もう。


「熱がある時は大人しく寝てなきゃダメよ〜。無理して動いたりしないこと!」

「さっき胸ぐら掴んで振回してた奴に言われたくねーよ…」

「それは近海がバカなこと言うからでしょう!?」


ぷんぷんと怒っていた珠理は、本当に積み重なっていた食器類を全部片付けてくれた。

それから、新しいコップと、スポーツ飲料と、フルーツが入っている皿だけを残して。


「じゃあね近海。また何かあったら連絡して?」

「…おう。色々とありがとう」

「ふふっ、いーの。今日の夜、ちゃんと連絡してね?」


…連絡?


「なにを?」

「まぁ、今に分かると思うわ。じゃあね、ちゃんとゆっくり休むのよ〜!」


つい1時間ほど前まで、キレていた男とは思えないほどご機嫌な声で、珠理はあっという間に部屋を出て行った。