「近海の考えは間違ってないと思う」


続きを話そうとした。細かく言わないと、伝わらないであろうと思っていた話に、珠理の声が割り込んできた。

ずっと色とりどりのフルーツを見ていた顔を上げると、そこには、真剣に俺の方を見る珠理の顔があった。


「泣いたり、弱いところを見せるって、勇気がいるじゃない? 無理に笑うことはできても、誰かに自分の弱い部分を見せるなんて、誰にでもできるものじゃないもの」

「……」

「…茶々にとって近海は、ちゃんと甘えられる唯一の場所だったのよ。昔から。それに早く気づいて欲しいって、アタシは思ってた」



…昔、珠理の今の恋人であるめごちゃんが、俺の前で泣いてしまった時があった。

その時、駆けつけた珠理は、ものすごく嫉妬にかられた顔をしていたっけ。


「…泣いてる顔は、トクベツ?」


…確かに、俺だって、茶々が俺以外の男の前であんな顔をしていたら、ものすごく嫌だって思ってしまう。


「当たり前じゃない。自分にだけ見せてくれる顔よ。自分の前では安心してくれてるんだって、嬉しいわ」

「…」


安心できる、場所。

俺が茶々にとって、そんな場所になれているのであれば、嬉しい。
それがたとえ、茶々にとってのトクベツなことじゃなくても、俺の前で安心して泣けるのであれば、嬉しい。

その役目が、俺でよかったって、思える。