俺の胸にうずくまるように、丸くなってしまった珠理。きっと、今の顔を俺に見せたくないんだろう。
…俺も同じだ。こんな情けない顔、見せたいとは思わない。
「…珠理、ごめん」
服を掴んでいる腕に、手を伸ばした。ゆっくりと動かすと、俺を締めていた手のひらは離れていった。
「…ごめん。茶々と喧嘩した。好きだって言い逃げしたんだ。だからムシャクシャしてた。それを全部、お前のせいにしてた」
「…」
…全部、俺の努力が足りないだけだったのに。
好きな女に届かない行き場のない想いを、珠理のせいにしてぶつけていた。
そんなの、とっくに気づいていたことだったのに、情けなくも、言ってしまった。
自分が、子どもだったから。
「…近海がなんと言おうと、近海は俺の憧れだよ」
「…ん、ありがとう」
「近海が俺より下にいるなんて絶対有り得ない。いつも背中を追いかけてんのは、俺だよ」
「うん」
「もう二度と、そんなこと言うな。俺の憧れている奴を下に見る言い方すんな」
「…うん、分かった」
ドン、と、一度だけ拳で胸を打たれた。地味に痛い。普段はあんなキャラなのに、いざとなったら男に変わるんだから、恐ろしい奴だ。
…だけど、珠理がこんな風になるのは、本気の中の本気である証拠。感情が高ぶった時に、昔の口調に戻ることは、もう知っている。
「…引っ張ってごめん。体調悪いなら横になってて。フルーツ剥いてくる」
「いいよ、忙しいんじゃねーの」
「いいの! 近海がきつい時は、アタシが代わりに頑張る」
「…ははっ」
まだ、少し拗ねた口調。
今回俺が放った言葉に、相当怒っているらしい。
だけど、なんだかスッキリした。
“ 俺が憧れている奴を下に見る言い方すんな ”
「…」
珠理の言葉が、耳の奥でこだまする。
それは、やがてじんわりと溶けて、再び俺の心に入り込んで来た。



