珠理は、たまにこうして感情を丸裸にして向けてくることがある。
家で色々と嫌なことがあって、俺の家に来て泣いている時だってそうだった。怒りと悲しさが混じると、こんな顔をする。
…だけど、今の珠理の顔は、そんなものよりもずっと酷い。
今まででいちばん、ゆがんでいる。
だけどたぶん、そんな顔をさせてしまったのは、俺だ。
「…俺が…っ、俺がどれだけ近海に救われてきたか、本当に分かって生きてきた…? 俺が近海のことをどれだけカッコいいと思っているか、どれだけすごいと思っているか、憧れてきたか、本当に分かってる…?」
「…しゅり、」
「近海は、ずっと俺と、平等じゃなかった? 自分が、下にいると思ってた?」
「…」
…頭が痛い。引き寄せられたときに、揺らされたから、ひどくなった気がする。
でも、それよりも痛いのは、痛みに耐えている珠理を見て、ギュッと締まった心臓だ。
「…俺は、近海が笑ってられるんならなんだっていーよ。俺を救ってくれたから、その分しあわせになってくれればいいって思ってた。だけど、それを俺が潰してた?」
「珠理、ちげーよ」
「茶々とのことは、どうにもできなかった。近海が茶々のことを好きだって気づいたのも、別れる本当に直前だったから」
「…」
“ ごめんなさい ” と、珠理は謝った。謝らなくていいところを、謝らせてしまった。だけど、さっきのトゲのある言葉を向けてしまった俺に、そうするしかなかったんだと思う。
今まで、珠理は茶々の件で俺に謝ることはしなかった。謝る必要だってなかったし、そうすることが俺に対する失礼だと思っていたんだと思う。
…だから、今の“ ごめんなさい ” は、きっと、珠理の精一杯の言葉。



