グッと、布団を握った。
何も言葉を発さない親友を、さらに拒絶するように潜り込もうとした。
珠理は、何も言わないで去って行くんだと思っていた。そういう奴だと思っていたから。
…だけど、この日だけは、違った。
「…お前、今なんて言った?」
俺の気持ちよりもはるかに黒い、深い、そんな声が、背中にぶつかった。
やがてそれは背中から俺の中に入り込んで、心臓に巻きついて行く。
ドクンと鳴った。初めて聞いた声だった。
思わず、振り返る。
だけどその時にはもう、胸元はグッと掴まれていて、目の前にはいつのまにか、怒り狂っているのに美しい顔があって。
一瞬で青い目と、俺の目が合って。
一度だけ、グッと引き寄せられた。
締まっていた首が、痛かった。
「なんでお前が、そんなこと言うんだよ…!!」
「…っ」
——それは、今まで聞いた中でいちばんかなしい、珠理の声だった。
「…しゅ、」
「お前は、今まで俺に対してそんなこと思いながら生きてきたわけ!? ずっと俺にかなわないって思いながらそばにいたのかよ!? そんな気持ち隠しながら、俺のとなりにいたのかよ!!今まで、ずっと…!!」
「………」
服をつかんでいる、手が震えていた。
俺の方をじっと見つめている青い目が、かすかに濡れていた。
…珠理が、俺に対してここまで怒っているところを、俺は初めて見た。



