「……茶々と、何かあったの?」
それでも珠理は、容赦なくその「やさしさ」を俺に向け続ける。
いいんだ。珠理と俺の間には、「遠慮」という文字はとうに存在していない。聞きたいことは聞くし、言いたいことは言う。
もう何年も、そーいう風に生きてきた。
「…近海、」
でも。
「うるせーよ。出てけよ」
そのやさしさを突っぱねてしまうほどの凶器が、また俺から生まれてしまう。
頭がガンガンする。ぼーっとしている。それなのに、心の中には鋭い牙があるみたいだ。
「お前に俺の何が分かんだよ。茶々のこと聞いてなんて言うつもりなんだよ。俺がいちばん欲しいものを初めから手に入れていたお前に、何が理解できるっていうんだよ…!」
…あぁ、やってしまった。
いちばん、言ってはいけないことを言ってしまった。
それも、珠理の方を見ないで、背中を向けて。
傷つけた自覚はあった。
でももう、いいんだ。いつかは吐き出さないと、俺はきっと、ずっと我慢をしながら生きてきたと思うから。
「結局、茶々は俺のことなんて見ることはねぇんだよ。お前のことは好きになっても、俺のことは絶対に好きにならない。いちばん近くに行けたと思っても、すぐに離れてく」
「…」
「俺は、お前にだけは絶対かなわない」
言葉を並べていて、今まででいちばん情けなくなった。心にもないことを言っているわけじゃない。きっと、どれも俺の本心だ。
だけど、ものすごく幼稚で、俺らしくない言葉だと思った。それは言いながら恥ずかしくなるくらい感じた。
…きっと、傷つけた。
俺の大切なものの、2つ目も。



