——ねぇ、近海。
近海はね、出会った時からたぶん、茶々のいちばん近くにいたんだよ。
それは近すぎて分からなくなることもたくさんあったけど、茶々は、ちゃんと知ってた。
珠理のことは、遠くて遠くて、手を伸ばしても届かなかった。それにつらくなって泣くこともたくさんあったけど、近海はそんな茶々に「大丈夫」って言ってくれた。
茶々の、泣ける場所になった。
怒れる場所になった。拗ねられる場所になった。甘えられる場所になった。
だから、今回のこともきっと、近海に甘えてしまったんだと思う。近海なら許してくれるって、心のどこかでそう思ってしまったんだと思う。
…結果、近海にはものすごく嫌な思いをさせてしまったんだと思ってる。
「…っ、」
考えただけで、また視界が歪むのはどうしてだろう。
近海が住んでいるところがどこかも分からないのに、足が進むのはどうしてだろう。
でも、流れちゃうものは仕方ないんじゃないかって。動いちゃうものは、止められないんじゃないかって。
近海のことだから、そんな茶々でも「大丈夫」って言ってくれる気がするから、またそれに甘えちゃえばいいのかなとも思ってる。そんな最低なことを、また考えてる。
ねぇ、近海。
どうしてあの時、茶々に「好きだ」って言ったの?
その好きは、どういう意味なの?
今まで、ずっとそう思ってたの?
…分からない。分からないけど、今はその気持ちの本当の意味が知りたくて走ってるよ。
気持ちが、ぐちゃぐちゃに絡まって、結ばれて、もう形も分からなくなってしまっているけど、近海に会えば少しは分かるかな。
茶々が分からないこと、少し厳しく教えてくれる近海なら、解いてくれるかな。
——駅まで走った。
硬いローファーで走ったせいで、足首が痛くなった。
でも、いいんだ。それよりも、できるだけ早く。
近海のところに行けるように。
走って行く。
はじめてだと思った。
こんなに、何か分からないものに、胸をギュッと掴まれたこと。
でもきっと、これは茶々にとったトクベツなものだから。
大事にするの。そして、持って行く。
近海の、ところに。
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