『茶々がね、今泣いてる理由なんとなく分かるよ』

「え…?」


初はエスパーだと思った。あたしは女の子とも仲良しこよしをすることが嫌いだったし、何でも話せる友達なんて、入学した頃は全くのゼロだったのに。

なんでか、初の前では、泣けるんだ。
近海と、同じように。


『分かるから、今日の午後のケーキバイキングは、次に持ち越してあげる! 泣くほど気になるなら、ケーキ食べてる場合じゃないでしょう?』

「…初…」


初の明るい声が届いたと同時に、建物の隙間から、太陽の光が差し込んできた。じっと見つめていた足元から、徐々に黄色い光に染まって行く。


『茶々、あたしたちもうすぐ、大学生になるんだよ』

「うん…」

『大丈夫。またひとつ、大人になれるよ。茶々だって、大丈夫だよ』

「…」


なにが? なにが大丈夫?
…そう聞こうとしていた時に、初は何かわたしの心に差し込むように、言った。



『陸奥先輩と、同じ大学行くんでしょ』



受かるかどうかとか、学部は違うとか、そういうのは今は考えない。でも、茶々が今まで頑張ってきたのは、近海たちと同じ大学に行きたかったから。

やりたいことももちろんあったけど、茶々の目標が、すぐそばにあったから。楽しい場所が、そこにあるから。


『茶々の気持ちを、あたしが全部分かってるわけじゃないけどさ。あんたが今まで頑張ってきたこと知ってるよ。 陸奥先輩のこと、追いかけてきたことも知ってるよ』

「…オーミを…?」

『そう。それなのにこんな時期にギクシャクしててどうすんの? いつもすぐ答えを出せるあんたが、今悩んでるんでしょう。 だったらすぐ行ってきな。 後悔しないように』

「…!」


光に、身体全体がやさしく包まれた。暖かいそれは、寒い2月の光とは思えない。

じんと痺れていた足を伸ばす。感覚がなくなりつつあった足先に、血が通って行くのが分かった。


「……東京、行ってくる」


でも、これで、歩いて行ける。
ちゃんと、歩いて行けるよ。