塾の出入り口を出て、階段を降りて、駐輪場の前に座り込んだ。
…あたしは、何がしたいんだろう。
こんなに、こんなに近海のことばっかり考えて。
でも、出てくるのは雨の中去って行く近海の背中。その前も、大学の廊下を歩いて行く近海の背中だった。
あたしは、いつから近海の後ろを追いかけるようになってしまったんだろう。
今までは、ずっと隣にいたような気がしたのに。
『もしもし、茶々?』
気がついたら、初への通話ボタンを押していた。本当に、気がついたら、だった。
すぐに出てくれた彼女のやさしい声に、目の前がじわりと歪んだ。
落ちてきそうなそれを、腕でぐいっと拭う。
「…もしもし、初…?」
『うん…って、えっ、何!? あんた泣いてんの…?』
「…茶々、なんかよく分かんない…」
『えっ!?』
「分かんない…っ」
どうして、涙が出るのか。
どうして、近海の背中ばかり思い出すのか。
どうして、こんなに胸に引っかかるのか。
どうして、近海は茶々に好きだと言ったのか。
もう、すべてが分からなくて、初めてのことが多すぎて、頭がついて行かない。
「どうしてって思うことばっかりで…、分かんない…」
どうして、茶々は近海に関係することになると、ちゃんと笑えないんだろう。どうして、泣いてばかりなんだろう。
近海には、茶々のまるごとを見せてしまうのは、どうしてだろう。
『…茶々?』
「うん…っ」
『泣いてちゃダメだよ。涙拭いて』
初の、少し厳しい声が、耳に届いた。
言われた通りに、もう一度腕で目元を拭った。白いカーディガンに、少しだけマスカラが付いた。もういいや。すぐに卒業するんだし。



