溢れて、止まらなかった。


この前も感じた、黒い、黒い、嫉妬の塊。


「風邪ひいちゃう、じゃねぇよ!他の男のところに行ってたくせに、そんなこと言ってんじゃねぇ!」

「…っ」


いやだ。誰か、止めてくれ。


「もう知らねぇ、好きにしろよ!結局お前は、俺じゃなくて別のとこ行ってばっかじゃねーか…!中途半端なことすんな!」


茶々は、俺のものじゃない。ただの1人の女の子だ。こんなこと、俺が言っていい言葉じゃない。

分かっている。分かっているのに。


「…近海、まって…」

「俺がいくらお前を好きで想ってたって、お前は結局、俺のとこには来ねーじゃん」



最悪だ。

こんな風に、いいたいわけじゃなかった。


こんなに困らせて、自分の言いたいことだけ吐いて、その上好きとか、言いたくなかった。

でも、この時は、どうしてもこうなってしまったんだと思う。色々なストッパーが外れていた。限界だったんだと思う。

原因はもう、よく分からない。



「…帰る。お前も、帰れよ」



持っていた傘を、頭にかかっていたタオルと一緒に押し当てた。あんな小さい折りたたみ傘じゃ、びしょ濡れになると思ったから。


「…ちょっと、近海…!近海!」

「…」


ザアザアと降り続く鉛色の世界を、歩いて行った。あっという間に、全身に冷たい空気が入り込んで来た。

…でも、このくらいで丁度いい。

頭を冷やさないと、冷静にならないと。


でも、今はかき消して欲しい。


俺の名前を何度も呼んでいる彼女の声を、かき消してほしい。



「近海ってば…!!」



顔まで、濡れた。


このまま、全てを洗い流して欲しかった。



こんなにも、自分を小さい人間だとは思ったことがない。最低な人間だと、思ったことがない。


そんな、つめたい、午後の2時過ぎ。