幸せを探して

「おはよう、川本」


斎藤君は真っ先に私を見つけてとんできた。


「おはよう、斎藤君。具合はどう?」


何も言及されないように、細心の注意を払いながら。


「あの後家に帰って薬飲んだら、すっかり良くなったよ!…冷えピタ、ありがとね」


「いえいえ…」


私は極力、斎藤君を見ずに話していた。


そんな私を見て怪訝に思ったのか、眉間にしわを寄せる斎藤君。


(本当はこんな事したくないの…ごめんね斎藤君)


私は心の中で必死に謝るけれど、それは斎藤君には届かなくて。


斎藤君が首を傾げながら自分の席へ行くのを、私はいたたまれない気持ちで見ていた。



放課後。


16:10に、私はまんまるパン屋さんの前に立っていた。


予定より5分早く着いてしまった。



たまにパン屋のドアが開いた時、香ばしいパンの香りが鼻をつく。


パンを買って食べたい欲望を抑えて愛来を待つ。


待ち合わせの時間ぴったりに愛来はやって来た。


「美空待った?ごめんね!病院行こー!」


言い終わる前から歩き出す愛来に向かって、私は駆けて行く。


「全然待ってないよ!隼人君、私のこと覚えてるかな?」


歩きながらそんな話を交わす。


15分ほど歩いて、元は私が入院していて、今は隼人君が入院している梅ヶ丘病院に到着した。