幸せを探して

そう思った私が意を決して話そうとした時、


「おはよー高橋!」


とクラスメイトの男子が入ってきた。



そこで私と陸人の会話は終了した。


私は今さっき教室へ入ってきた風を装い、コートを脱いで椅子の背もたれに掛ける。


陸人は数学の参考書をばれないように慌てて片付け、おはよー、と何食わぬ顔で挨拶をする。


陸人は普段、勉強をしていないように見せかけている。


だから、数年先の数学の参考書を開いて勉強していることは知られたくないのだろう。


陸人はこちらを向いて何か言いたそうな様子だったが、私が首を横に振るとすぐさまクラスメイトの方へ駆け寄って行った。



(これでいいんだ)


私は自分に言い聞かせる。


そう、これでいいんだ。


お父さんからの課題が先だから。


幸せについて、考えないといけないから。



しばらくすると、愛来が登校してきた。


「おはよー美空!今日の放課後暇?」


「おはよう!…暇だけど、何で?」


私は1年前のあの日以来、ほぼ部活に顔を出したことがない。


私と美花は、同じ美術部だった。


ぎりぎり退部はしていないものの、 美花が居ない状態で部活へ行く事は、元々心にぽっかり空いた穴がまた一段と大きくなるようで、辛かったのだ。


けれど愛来は、チアダンス部に所属していて、休むのが難しいと聞いていた。