幸せを探して

2-3の教室のドアを開けると、陸人が自分の席に座って勉強していた。


いつもは勉強していないように見える陸人。


けれど、誰も教室へ入ってこない朝の時間帯だけ、陸人は勉強している。


いわば、陸人のためだけの教室だ。



机には私達には到底解けないような数学の参考書が開かれ、陸人はそれをいとも簡単に解いていく。


シャーペンを持つ右手を止めることなく動かし、すらすらと式を書き、計算し、答えを導き出す。


その彼の姿は、まさに天才と言っていいほど。


「陸人…」


私はおずおずと呼びかける。


「…んー」


陸人は、答えを書きながら上の空で返事をする。


「あー、終わったー!」


しばらくして答えをノートに書いた陸人は、伸びをしてから顔を上げた。


「…あれ川本、今日早くね?」


(そう、陸人に言いたいことがあって早く来たの)


心の中で深呼吸した後、私は話し掛ける。


「陸人、約束覚えてる?」


その瞬間。


陸人の顔が、歪んだ。


「…うん」


きっと私の顔も、歪んでいると思う。


「斎藤君に、教えないで。私が双子だったってこと」


「…もちろん」


ゆっくりと返事をされる。