幸せを探して

「ごめん、今度から言わないよ」


斎藤君が謝っても、陸人は顔色ひとつ変えなかった。


「お前には分かんないから」


陸人はそう吐き捨て、斎藤君を冷ややかに見つめる。


「本当にごめん。…やっぱり、俺っ…」


斎藤君は何か思い詰めたような顔をしながら謝った。


「…………だから」


「嘘だよー!斎藤、俺怒ってねーよ!」


斎藤君の呟くような小さな声は、陸人の明るい声と豪快な笑い声によってかき消された。


「え…?」


斎藤君は伏し目がちだった目を上げ、驚いた様に陸人を見つめる。


「だから、怒ってないって!…まあ、確かにびっくりしたけど、それだけだからさ!」


斎藤君はしばらく無言で陸人を見つめ、それからにっこり笑った。


「何だよー、本気かと思ってびっくりしたよ」



教室には、先程までの暗い雰囲気は消え失せていた。


陸人は斎藤君の肩に腕を回し、花言葉についてやたらと大きな声で説明しながら教室を出て行った。


けれど、私には分かっていた。


陸人が言っていた言葉には、本心も隠されていたことに。


陸人は、過去に起こったことほぼ全てを“忘れられない”事に対して苦しみを感じている。


誰にも言えなかった本音の塊が、斎藤君の何気ない一言によって砕けたのだろう。