「今日も、会社にそんなたくさんのお金を持っていくの？」

僕はサイフにたくさんの一万円札を入れている、母親に訊いた。

「ごめんね、仕事の付き合いでお金が必要なのよ」

母親は、軽い口調で僕に言った。

ーーーーーーうそだ。どうせ今日も、友だちとお酒を飲んで帰るからおそくなるんだ。母親は僕と友人、一体どっちが大切なんだろう？

このとき、僕は初めてそんなことを思った。

「お母さん、あまりお金を無駄使いしない方がいいよ」

そう言って僕は、壁掛け時計に視線を移した。

時刻は、午前七時五分を指していた。

「もう、行く準備しないと」

僕はイスから立ち上がって、ハンガーに吊るしてあった制服を手に取って着替える。パジャマを脱いで学校の制服に着替えると、長い夏休みが終わったんだと実感する。

「はぁ。できることなら、もう一日だけ休みほしかったなぁ」

僕はそう思いながら、重い足取りで玄関に向かって歩いた。

「いってらしゃい」

口から明るい声を出して、母親が白い手を振って僕を見送る。