29



「もうすぐ文化祭ね〜。」

放課後、瞳先生がいった。

その瞬間、大輔くんが大きな溜息をついた。

意外だ。

大輔くんは、1番盛り上がりそうなのに。

「どうしたの?大輔くん。」

気になって聞く。

「だってさー、文化祭っていったらさー、クラスの出し物とか全力でやりたいじゃん?でもさ保健室登校の人は、それができない……。よって!全く楽しくないのである!」

熱弁する大輔くんをよそに、瞳先生は笑っていた。

「あー!ひとみん笑ったな!」

「大輔くん。心配しなくても、今年は保健室も休憩所を作るつもりよ。何も無くないわ。」

その瞬間大輔くんの目の色が一気に変わる。

「なぬ!?」

「クオリティの高いものにしたいから、忙しくなるわよ。」

「ふぉおぉぉおおぉお!やる気出てきた!」

大輔くんがガッツポーズをする。

「早速今日から、作り始めるわよ。」

「おお!ひとみん!俺何すればいい!?」

「そうね……、まず、ベッドのカーテンを、外してくれるかしら?」

「了解っす!」

「ひ、瞳先生、僕は何をすればいいですか??」

京くんも乗り気で瞳先生に言う。

「うーん、じゃあ京くんは、どんな休憩所にしたいか、デザインを考えてくれる?」

「はいっ!頑張ります!」

「日奈子ちゃんと澄春くんは、ダンボールを取ってきてくれるかしら?」

私も楽しくなってきた!

「ダンボールの場所は……、」

「分かってますよ。」

澄春くんが言う。さすが澄春くん。

「日奈子ちゃん、行こうか。」

「うんっ。」

澄春くんと一緒に教室を出る。

去年の文化祭は、確か健吾と一緒で。

楽しかったけど、身長のことでずっと悩んでたから、心から楽しめたわけではなかったな。

それが、今では……、

「ダンボール、ここだよ。」

澄春くんの言葉で我に返る。

「へっ!?あ、うん、ありがとう……!」

「どうした?考え事?」

「うーん、そんなところかな。」

私は、笑って誤魔化す。

「そっか。」

ダンボールを持つと、意外と重かった。

でも澄春くんは、軽々と持ち上げている。

力持ちな部分もあるんだな。

本当に何でもできるんだ。

「戻ろうか。」

澄春くんがそう言って、私達は歩き始める。

「日奈子ちゃん、あのさ……、」

澄春くんが何かを言おうとした瞬間、ある2人組が、階段から降りてきた。

「あ。」

「あ。」

「あ。」

「あ。」

4人が同時にそう言った。

その2人組は、颯磨くんと、『橋田さん』と呼ばれていた凄く可愛い女の子だった。

4人は無言で、お互いに会釈をした。

「日奈子ちゃん、それ重いでしょ?僕が持つよ。」

澄春くんが言う。

「え、でも……、いいの……?」

「うん、行こう。」

澄春くんが私の分のダンボールを持つと、歩きだした。

私も慌てて後を追う。

颯磨くん……。

心が少しだけズキッと傷んだ。

「今のが颯磨くん?」

さすが澄春くん。

鋭い。

私はうなづいた。

「へぇ。」

澄春くんが少しだけ笑う。

でもなんかその笑い方は、いつものニコニコではなく、ニヤッとしたような笑い方だった。

「隣にいた子、凄く可愛かったね……。」

自分でも分からないけれど、こんな言葉が出てきてしまった。

「そう?」

「うん。あ、澄春くんと同じ苗字なんだって。」

「知ってるよ。橋田愛美さんでしょ?」

苗字は前にたまたま聞いたことがあったけど、名前までは知らなかった……。

でも、そうか。

澄春くんは転校してきた時に、名簿を見てクラス全員の名前を覚えたんだもんね。

多分それで『橋田』っていう名前の女の子が1人しかいなかったから、分かったんだね。

「傷ついてる……?よね……。」

澄春くんが気を使ってくれる。

「ううん、全然。」

「嘘。顔が傷ついてる顔だよ。」

澄春くん……、優しい……。

「大丈夫。」

「ほら、そういうところ。……本当に昔の姉に似てる……。」

澄春くんが、小声で呟いた。