「……少々お待ちください」



彼女は挙動不審なまま部屋の奥に入っていった。



暇になった栞は、子供たちと遊ぶ沙也加のほうを見た。


なぜかいきいきしているように見える。


大人が五、六歳の子供とあそこまで楽しそうに遊ぶのは、そう簡単にできることではない。



おまけに沙也加は四十歳。


おかしいとしか言えない。



ここが学園の中だからまだましかもしれないが、これが近所の公園だったら彼女のような人物は多くの人に冷たい視線を向けられることだろう。



「すみません、お待たせしました」



声をかけられ、振り返るとさっきと違う女性が立っていた。


ボブカットの若い職員と変わって、ベテランのように見える。



「あの、さっきの方は……」


「北条は沙羅ちゃんと一番仲がいい職員でして、彼女の母親が殺されたということにショックを受けたみたいです」



栞は申しわけなさがこみ上げるが、伝えないことには話が進まなかったため、あまり気にしないことにした。



「私、ここで学園長をしております、姫野奈緒と申します。あの、立ち話もなんですので、中へどうぞ」