栞は言葉を詰まらせた。


それを見た遥は、少し落ち着いた。



「もう過去のことにこだわりすぎるな。もうこの世に、花村桃の六年間を知っている人間は存在しないんだよ。お前は岡本栞。いくら忘れてた過去を思い出したからといってこの二十年間が変わるわけじゃねーんだよ」



言い争いが苦手な栞は、涙を流しながら必死に対抗する。



「じゃあ真瀬さんは……真瀬さんだったらどうするんですか。私みたいになったら……自分の家族を壊すきっかけになった親の浮気相手捜して殺そうって思わないんですか」



「ああ、思わねーな。そいつを殺したところでなにかが変わるわけじゃない。なにより親はそんなこと望まないと思うからな」



冷たく言い放された栞は、その場にしゃがみ込んだ。


律は栞のそばに行き、声をかける。



「岡本、大丈夫だよ。そんなにすぐに受け入れなくてもいいの」



しかし、栞はその声かけには答えず、ただ独り言のようにつぶやいた。



「……なにをするのが正解なんですか……このまま、なにもしないなんて……」


「だから、寺崎苺を殺した犯人を捜査すればいいんだよ」



遥は栞と視線を合わせ、手を差し出す。


栞は涙を拭い、遥の手を取った。