「それで、意識なくなる前に聞こえたの。お母さんの声が。ごめんね、今から私も逝くから、って。その声は直前に聞いた恐ろしい声じゃなくて、優しい、いつものお母さんの声だった」
話し終えて、栞は沙也加に肩を抱かれた。
病室はしんみりしていた。
「……どうする、事件解決したけど」
宙がみんなに聞いた声は、その場の雰囲気に合うほど小さかった。
「どうするったって……」
律の言葉をきっかけに、全員が栞のほうを見る。
栞は髪を耳にかけ、ゆっくり顔を起こした。
「お父さんの浮気相手を捜します」
真面目でお人好しの栞が、殺気立っていた。
「見つけて、どうするの……?」
みんななんとなく、栞がしようとしていること察していた。
だが、いつもの栞であってほしい、認めたくないという思いで、確認のために聞いた。
「ただ捜すだけです。お父さんがお母さんよりも好きだって思った人が、どんな人か知りたいだけ」
栞は笑っていた。
だが、隼人たちにはその笑顔がどことなく恐ろしく思えた。



