「栞、話せる範囲でいいから、話してくれないか?」



また黙って首を縦に振る。


そしてつぶやくように話し始めた。



「昨日、真瀬さんが言った通り、お母さんがお父さんを殺して、自殺した。これに間違いはない」



理屈では納得していたが、実際に聞くと、信じ難い。



「そして、その原因はお父さんの浮気。いつもは喧嘩しない二人だったんだけど、その日は珍しく喧嘩してたの。とても入って止められるような雰囲気じゃなかった。だから、陰で見てるしかなかった」



少しずつ、栞の顔色が悪くなっていくことに、全員気付けなかった。


ありえない真実を受け入れることに、全員いっぱいいっぱいになっていた。



「もうやめて、いつもの仲がいい二人に戻って。そう願ったときだった。お母さんが包丁を手にしたの。手にして、それをお父さんに向けた」



栞の声が震え出す。


さすがに沙也加が気付き、強く握られた栞の拳に、自分の手のひらを被せた。



栞はゆっくり深呼吸をし、続ける。



「正直、なにが起こってるのか全然理解できなかった。そしたら急に目の前が真っ赤に染まってった気がする。足がすくんで、動けなかった」



深呼吸をしたはずなのに、栞の呼吸は荒くなっている。