栞に向けて、指をさした。


 栞はもちろん、遥や宙、律は信じられなかった。



「私が……花村桃? そんなわけ……ねえお父さん、嘘なんでしょ……?」



栞の目は泳いでいて、肯定の言葉を求めていた。



「嘘じゃない」



だが、隼人は目を伏せ、そう言った。



「お前、生まれてから六年間の記憶がないだろ。まあ、普通お前くらいの年になったらその辺の記憶、忘れてるやつも少なくないが……」



律たちは、自分が六歳のころの記憶を思い出そうとする。


薄らではあったが、なんとなく思い出せる。



だが、栞は欠片すらない。



「お前が記憶を失ったのは、目の前でお前の親が殺されたからなんだ」



まさかの言葉に、全員息を呑む。



「犯人がお前を殺さなかったのは、お前に気付かなかったからだろう。それで、お前はショックで倒れ、一週間眠ったままだった」



そこまで言われても、栞は思い出せない。



誰もが本当にあった話とは思えないが、こんな嘘をつく意味もないとなると、信じるしかない。