栞は宙に聞こえないようにつぶやいた。



宙がいつも負けるのには、理由があった。


宙が最初にグーを出したときの親指に注意すれば、誰でも宙に勝てる。


例えば、グーだったら親指を強く握り、チョキだったら人差し指と中指の下に親指がある。


そして、パーのときは親指を握らない。



それに気付いた遥たちはそれ以降、宙の手に注目して出すものを決めている。



だが、普段じゃんけんに参加しない隼人はその癖に気付かず、負けたということだ。



「ただ単に火神の癖に気付けなかっただけでしょ。でも負けは負けだから、警視長、私お茶で」


「俺はコーヒー」


「同じく」


「私りんごがいいな」



隼人は言われた飲み物を取りに行く。


そして机の上にペットボトル四本を置いた。


全員さっきとは打って変わって、楽しそうに笑いながら雑談を始める。



「あ、そうだ。私、クッキー買ってきたんだった。みんなで食べよ」



そう言って律は資料を片付け、テーブルの上に広げた。


宙と隼人の手がすぐに伸びる。



そして隼人はそれをコーヒーで流した。



「どうだ。今回はお前らが頭を悩ますほど難しいのか」