眠らせ森の恋

 




「バスタオル、置いときますねー」
とつぐみはすりガラス越しに風呂場の奏汰に呼びかけた。

 奏汰の声が少し反響しながら聞こえてくる。

「一緒に入るか?」

「けけ、結構ですっ!」
と叫んだあとで、でも、そうだな、と思う。

 帰ったら、毎日、パタッと寝てくれれば、いいんだよな。

 うむ。
 やはり、あれしかない、と思いながら、つぐみは隠していた本を出してきて、ソファで読み始めた。

 『こうすれば眠くなる』という本だ。

 うーむ。
 参考になるような、ならないような。

 やっぱ、疲れると眠くなるよな。

 じゃあ、社長は仕事熱心だから、仕事で疲れさせるとか。

 私がミスばかりして、尻拭いに奔走させるとか。

 いや、待て。
 社長が奔走しなきゃいけないミスってなんだ。

 まず、私がクビになるな。

 クビになって、破談になる。

 なんだかそれはそれで踏んだり蹴ったりだ、と思いながら、欠伸をする。