「あ、じゃあ、モスコミュールを」

「モスコか定番中の定番だな」
と鼻で笑う。

 いけませんか、定番の品では、と思っていた。

 しかし、なんだかんだ言いながらも、奏汰は、慣れた手つきでモスコミュールを作ってくれている。

 かぶりつきの位置でその姿を見ながら、
「バイトでもしてたんですか? バーとかで」
と訊いてみた。

「……俺がか?」
と言う奏汰に、そんなわけないですよねー、と苦笑いしていると、奏汰よく冷えた銅製のマグカップにモスコミュールをそそぎながら言う。

「いや、忙しくて外で呑む余裕のないとき、家で自分で作れるよう練習したんだ」

「そうなんですか。
 いや、すごく手際がいいな、と思って」
と言うと、

「店で呑むとき、バーテンの動きをじっと見てるからな」
と言う。

 怖いな、その客……。