それでも、新しい家の真新しいお風呂に入ったりすると、それもまた、楽しくないこともない。

 ぼちぼち機嫌のいいまま、
「では、おやすみなさい」
と見覚えの無い箪笥やなにかでいっぱいになったおのれの部屋に向かおうとすると、

「待て」
と腕をつかまれた。

「婚約者っぽく振る舞うために此処に住んでるんだろうが。
 このまま、では、おやすみなさいで済むと思っているのか」
と言われる。

 申し訳ございませんっ、教官っ、と言いたくなるような口調だった。

「い、いや、あのフリなんですよね?」
と硬いまま、確認するように言うと、そんなつぐみを奏汰も扱いかねているようで、腕をつかんだまま、なにか迷っているようだった。

 だが、ふいに、
「キスでもしてみるか」
と言ってくる。