『ああ、奏汰くんかね』
と言う声に、どきりとしていた。

「し、白河さんですか?」

 どうやら、電話に出られるくらい回復したようだ、と思っていると、

『すっかり元気になってねー。
 来週退院だよー』

「そうなんですか。
 よかったです」
とほっとして言うと、

『いやあ、君のお父さんから、私のために結婚しようとした話を聞いて、冷や汗が出たよ。

 すまなかったね。

 その話に付き合わせたお嬢さんにも一度お会いして、お詫びしたいんだけど。

 新人秘書の子なんだって?

 しかも、秋名さんの娘さんだとか。

 いつが暇かな。
 今度、君たちと双方のご両親を食事に招待するよ』
と白河は言ってきた。

 そうか……、と思う。

 そうか。
 もう、結婚するふりなどしなくてもいいんだ。

 強引に魔女に奪われた王冠を追うように、奏汰は、つぐみの消えたドアを見た。