眠らせ森の恋

 いえいえいえ、と打ち直してみたが。

「あれ?
 今日のお買い物、二千四百万円になってます」

「……お前の財布には、二千四百万入ってるのか?」

 そう言いながら、ひょい、と奏汰が後ろから覗き込んでくる。

 奏汰の顔が肩の辺りに来て、更に動揺してしまった。

 が、奏汰の髪から拭き切れていない水がキーボードに落ちる。

「社長っ、濡らさないでくださいーっ」

 パソコンが壊れるーっとつぐみは叫ぶ。

「ちゃんと拭いてくださいよ、もう~っ」
と奏汰の手にあったタオルを取り、思わず、髪を拭いてやる。

「ほら――」
と言いかけたとき、少し屈んだ奏汰の顔が目の前にあるのに気づいて、思わず、タオルを床に、ぺしっ、と投げ捨ててしまった。

「すっ、すみませんっ。
 ご無礼をっ」

 不用意に社長に触れるとかっと叫ぶと、
「……いやお前、タオル投げ捨てる方がご無礼だろうよ」
と床にぺったりと落ちているタオルを見ながら、奏汰は言った。