今日の午前中は、清谷書房の応接室で各社からの取材。
午後からは、都内の書店でサイン会の予定になっている。

ちなみに、密着取材を始めとする、時間やジョーの負担が大きな依頼は断ったと言っている。
すごいすごいと驚いているのに、実際はそれを上回る注目度なんだと次々と知らしめられた。

出勤すると、すぐさま編集部の寺下部長から呼び出しがあった。
ジョーは、別室で編集部の人たちと打ち合わせをしている。

「大塚出版の資料の入手、ありがとう。先生は、なんて?」
「それほど興味があったようには、見えませんでした」
「ただの写真集だったら、ジョー・ラザフォード先生は乗らないかもしれないわね。出したら、バンバン売れるでしょうけど」

女性に比べて販売部数は少ない男性写真集だけれど、ジョーの容姿で、注目が集まっている今、すぐに出せるのなら、かなりの売り上げが確実に取れるだろう。

清谷書房は、文芸メインの中堅の出版社なので、グラビア写真集はほとんど出していない。
同じ企画なら、大塚出版で出した方が、残念ながら良いものができるかもしれない。

「しかも、相手が鎌石なんてね」
「鎌石さんをご存知なんですか?」
「業界では、有名な編集者よ」

そう言って寺下部長が挙げた書籍は、世間でかなり話題になったベストセラーばかりだった。
鎌石さんは、大塚出版が誇る若手の名物編集者らしい。
テレビや雑誌で特集が組まれるほどの人ということで、勉強不足を叱られてしまった。

「あの美人が出て来たんじゃ、手強いわね。色仕掛けをしかけられないよう、気をつけなさいよ」
「鎌石さんって、そんなことするんですか?」
「しないだろうけど、相手はジョー・ラザフォードよ? 色で何とかなるなら、そうしたくなるかもしれないじゃない」

そういうことか。

でも、あれだけの美人だったら、男性でも女性でも、にっこり笑って優しくされるだけでコロッと気を許してしまうかもしれない。