一途な小説家の初恋独占契約

鎌石さんの言うことは、ほとんど事実だ。

ジョーが、気持ちを伝えてくれたのは別として、ジョーがこうして仕事に私を伴っているのは、知人の私が、たまたま清谷書房で働いていたからだ。

私が社員でなければ、休日に訪ねて来てくれるだけだっただろう。

もし知人でなければ、私を指名することはなかったはずだ。
私は、翻訳物を担当しているわけでもなければ、編集部の人間でさえない。
本来は、作家との接点はあまりない営業部の人間だった。

彼女の言うように、ジョーに対して新しい仕事の提案もできない。
それどころか、会社から命じられた翻訳の権利の契約の話だって、全然できていない。

「彼女とどんな話をしたのか、聞きたい?」

ジョーがそう聞いてきたのは、家についてからだった。
タクシーの中では、慌しい一日の疲れからか、会話はなかった。

「……私が聞いていいのかな」

会社からは、絶対に調べて来いと言われるだろう。

でも、真正面からぶつかってきた鎌石さんの提案を、盗み見るように知ってしまうのは、フェアじゃない気がした。
彼女は、いつ出てくるかも分からないジョーのことを、一日中ホテルで待ち構えていたに違いないのだ。

「……汐璃は、余裕だね」
「そんなことないよ」

余裕なんて全然ない。
その反対だ。
あまりに余裕がなさすぎて、どうしたら良いのか分からない。

仕事もことも、ジョーのことも……。

「僕が、こんなに……! いや、いいんだ」

珍しく声を張り上げようとしたジョーが、疲れたように声を落とした。

本当に疲れているのかもしれない。
朝早くからイベントに借り出され、その後は予定になかったのに、夜まで取材に応対していたのだ。

長い間、次から次へと押し寄せる知らない人たちの質問ににこやかに答え、カメラを向けられる気分はどんなだっただろう。

それなのに、私はジョーを労わることもしていない。

「ジョー、ごめんね。疲れたよね。お風呂に入って、ゆっくりして」
「……汐璃は、それでいいの? 僕が、知らない女と話しても、何も気にならないんだ」
「それは……知りたいよ。大塚出版が何を言ってきたのか、気になる。だって、うちとは契約してくれないのに……。あっ」

慌てて口を噤むけれど、遅い。

ジョーは、みるみる目を見開き、気まずそうな私に諦めたように肩を落とした。