一途な小説家の初恋独占契約

「大塚出版の鎌石と申します。突然お引き留めして申し訳ございません。先生にアポイントをお願いしたくても、門前払いなものでして」
「そうですか」

モデルか女優さんかと思いきや、同業者だった。
大塚出版といえば、日本人なら誰もがその本を手に取ったことがある大手だ。

軽いジャブを受け流して、ジョーは名刺を受け取る。

「先生に、ぜひご提案させていただきたい企画があるんです。少しで結構ですので、お時間をいただけないでしょうか」

鎌石さんの視線が私を向く。

「清谷出版の方ですね。お時間をいただいてもよろしいかしら? 先生は、私が責任を持ってお送りしますので」
「あ……」

鎌石さんの鋭い視線に負けつつ、名刺交換を済ませる。

「窪田さん……営業部の方がついていらっしゃるのね。担当さんなのかしら……」

ジョーが、軽い咳払いをする。

「あ……じゃあ、私は失礼します」

慌てて下がろうとすると、ジョーの腕が微かに私の背中を擦った。

「……引き止めなくていいの? ライバル会社からの誘いだよ?」

冗談めかした言い草に、うまい返答も思いつかない。

「ライバルだなんて、めっそうもない。大塚出版さんは、日本で一、二を争う大手です。先生のお仕事に口を出す権利までは、うちにありません」
「……そう。そこで座って待ってて」

ジョーに言われたとおり、近くの小さな待合スペースに腰を下ろす。
ジョーは、長話をするつもりはないのか、立ったまま鎌石さんと話している。

美男美女が居並ぶ姿は、それだけで絵になる。
豪奢なホテルと相まって、映画の中の世界のようだ。

二人の声は、ここまで届かない。
穏やかな笑みを湛えた姿だけが全てだ。