翌朝、私とジョーは、都心のホテルに向かった。
ジョーの小説を原作とした映画『シークレットロマンス』のDVD発売イベントがあるからだ。

タクシーがホテルに近づくと、道端に数人単位で立っている女の人たちがいた。
全部合わせると、百人近くになるだろう。

「あの人たち、何やってるのかな?」
「入り待ちじゃないですかね?」

私の呟きに、タクシーの運転手さんが答える。

「大方、このホテルに芸能人か誰かが来るんでしょう。そのファンの人たちじゃないかな。撮影とかパーティとかがあるときは、よくいますよ」
「へえ」

今回のイベントは、一般の見学者は入れず、マスコミ向けの記者会見だけだと聞いている。
それでも、こうして会見場所を調べ、待ち構えているというのには、感心してしまう。

映画の吹き替えを担当したのは、最近かなり人気の出ている若手の俳優と女優なので、その人たちのファンなのだろう。

「地下の車寄せの方でいいですか? 1階の正面玄関につけることもできるけど」
「えっと……目立たない方でお願いします」
「じゃあ、地下に行きますね。関係なくても、人がたくさんいるところに行くのは嫌だよね」
「そうですね」

愛想笑いを運転手さんに返しながら、考える。

……あの中に、ジョーを待っている人なんて、いないよね……?
幸い、地下のタクシー降り場には、ホテルマンの人が待ち構えていただけで、他に人影はなかった。

そそくさとタクシーを降りて、ホテルに入ると、ドアマンの後ろからヌッと人が現れた。
ジョーが、すかさず私を後ろに隠す。

「よっ」
「直島さん!」

編集部の先輩社員、直島さんだった。
ジョーの大きな背中から抜け出し、慌てて挨拶する。

「どうしたんですか? 今日来る予定じゃなかったですよね?」
「昨日一日で、何だか騒ぎになってたからな。お前一人じゃ荷が重いだろうってことで、フォローしに来た」
「ありがとうございます!」
「さあ、こっちだ」