「さすがに読んでるよね。ジョー・ラザフォード、来日するらしいよ。『シークレットロマンス』のDVD発売記念イベントに出るんだって。多分、うちの会社にも来ると思う」
「えっ!」

私が驚いたのは、ジョー・ラザフォードがこれまで姿を露わにしたことがなかったからだ。
近影さえ、見たことがない。

アメリカでは、女性向けのレーベルで出版されているジョーの作品は、『シークレットロマンス』がヒットするまで、ロマンス小説に過ぎないとひとくくりにされていたけれど、今となっては、男女問わず世界中でファンを獲得し、文壇からも高く評価されている。

そのジョーが、マスコミの前に姿を現すなら、話題になるのは必至だ。

ジョー・ラザフォードは、一体どんな人なんだろう……。

私は、何度も想像した。

摩天楼の似合う美女?
それとも、花柄の似合う可憐な人?

どちらにしたって、きっと美しい女性のはず。
外見は知らないけれど、少なくとも内面は、愛を語るに相応しく、豊かな感情に溢れ、才気煥発な人に違いない。

彼女の紡ぎ出す言葉は美しく、めまぐるしく変化する展開は、最後の一語まで心を揺さぶり続ける。

情熱的で理知的なジョーの作品が、私は大好きだった。

「……実は私、ジョーの作品、デビュー作からほぼリアルタイムで、全部読んでるんだよね」
「えっ!」

次に驚いたのは、秋穂と直島さんの方だ。

「どうやって? 『シークレットロマンス』以外、翻訳されてないでしょ?」

照れ臭さを感じながらも、私は告白する。

「英語の原書を読んだの。他の作品の日本語版は出さないの? 書店さんにも、よく聞かれるよ」

普通、あれだけ売れた著者なら、他の作品も次々発売される。
出版社の営業部で書店さん相手に仕事をしている私は、他の本の刊行予定はないのかと尋ねられることもしばしばだった。

翻訳書を担当する編集部で働いている秋穂と直島さんなら、何か知っているかもしれない。