「今話せなくてもいいよ。また、手紙に書いてくれる?」
「汐璃……」

ジョーのもう一つの手が重なって、私の手がジョーに挟まれる。

途端に、随分恥ずかしいことをしていたと気づいて、手を離そうとしたけれど、ジョーの力が強くて、うまくいかなかった。

動揺する私に、今度はジョーの方が顔を近づける。

「必ず書くよ。必ずキミに……伝えるから」
「……うん」

それから、海辺を散歩した。
中学生には、ちょっと敷居の高いオシャレなカフェでパンケーキを食べた。
浜辺から、海に沈む夕陽を見た。

仲見世通りを冷やかしながら、江ノ島へ向かった。
急なエスカレーターが怖いのか、ジョーは私の後ろにピッタリとつき、ベルトの上で手を重ねた。
上に着く頃には、すっかり日が暮れていた。

ライトアップされた灯台に上った。
屋外展望台に出れば、潮風が髪を舞い上げる。

空と海との境界が消え、まだ明るさを残した藍色の中で、キラキラと夜景が輝き始めていた。

「……汐璃」
「うん?」

ジョーは、もどかしそうな顔で、私を見ていた。

ジョーのよくする顔だ。
きっとまた、うまく言葉が見つからないのだろう。

「……ううん、何でもない」
「そう? キレイだね」

展望台の営業時間終了を告げるアナウンスが響いている。

ジョーは、しばらくためらってから、困ったように笑った。

「うん……キレイだ」

言葉を探すのを、また諦めてしまったのだろう。

私も切なくなったけれど、ジョーは、気を取り直すように私の手を引き、元気な足取りで展望台を下りていった。