家族で何度も行ったことのある水族館で涼みながら、ジョーは色んな話をしてくれた。
アメリカでの学校のこと、ジョーの家のすぐ傍にある海辺のこと、2週間過ごした日本のこと。

私もたくさん話した。
もうすぐ始まる期末テストのこと、夏休みにある部活の大会のこと、家族で行った旅行のこと。

そして、ジョーと出会って生まれた、私の夢のこと。

ジョーと並んでイルカのショーを見ながら、私は漠然と将来に想いを馳せた。

私と比べて、少し幼いように映るジョーは、瞳をキラキラさせてイルカのプールに見入っている。

「汐璃、すごいね……なんていうか……すごい」
「……うん」

興奮を抑えて私に囁いたジョーは、もどかしそうに口を開閉しながら、そう言った。

「本当は、言いたいことがたくさんある」
「うん」
「でも……何て言えばいいか、分からないんだ」
「英語でもいいよ。理解できるか分からないけど」
「……ううん、いい。日本で日本人と話すときは、日本語で話すと決めたから。それに、英語でだって僕は……きっとうまく話せない」

ジョーは、握り締めた拳を膝に強く擦りつけた。
もしかしたら、思い切り叩きつけたかったのかもしれない。

いつもは女の子よりおとなしそうなジョーの初めて見せる激しさに、怖いとは思わなかった。
ただ切なかった。

手紙でのジョーは、雄弁だった。
身の回りのことを面白おかしく伝えてくれ、お互いの手紙は長くなる一方だった。

きっと、ジョーの中にはたくさんの言葉が詰まっている。
それを知れなくて残念に思う私よりきっと、伝えられないジョーの方が苦しいだろう。

私は、膝の上で震えるジョーの拳に、自分の手を重ねた。

ハッと身じろいだジョーを覗き込むようにして、真剣に言う。
イルカのプールでは、まだショーが続いていたけれど、気にならなかった。