ジョーが無事に見つかったことを関係各所に連絡しながらも、私はひどく緊張していた。

今まで、ジョーに訳文を読んでもらったことは何度もある。
でも、その感想を事細かに聞いたことはなかったし、ここまでの長文を読んでもらうのは初めてだ。

日本語を読むのは苦手と言っていたくせに、私と変わらないスピードで読み切り、最後の1枚をそっと捲り上げた。

「……汐璃」

ギュッと、原稿ごと抱き締められた。
震える吐息が、私の耳を揺らす。
ジョーの太い腕も震えていた。

「キミは、どうしてこんなに僕の言いたいことが分かるんだろう」
「ジョー?」

振り向こうとする私を阻むようにジョーは、きつく私を抱き締めた。
涙の代わりかのように、私の眦に唇を押し付けた。

「……パーフェクトだ、汐璃。これで、僕の小説が完成した。僕はキミがいて、初めて完全になれるんだ」

ジョーは、私を抱え上げて自分の方に向ける。
ヘーゼルの瞳は暗がりの中でも輝き、その中に私だけを映している。

「キミが僕を独占してくれ。僕には、一生キミしかいない。愛してるんだ、初めて会った日から……初めてキミが手紙をくれた日からずっと、キミだけの僕だ」
「私も、ジョーだけだよ……」

私の瞳にも、ジョーだけが映っている。

体はすっかり逞しくなって、私を軽く抱え上げてしまえるほどになった。

でも、優しい瞳も繊細な心も変わらない。

手紙の中に棲んでいた私だけのジョーは、世界的な小説家になって私の元へ帰って来ても、私だけのジョーだと言ってくれた。

私の心も、ジョーだけに捧げたい。

私たちは、永遠にも似た時間、見つめ合った。

やがて、どちらともなくその距離が縮まる。

温かく柔らかなジョーの唇は、熱く繊細に私を融かした。
分かれていた二つの魂が、一つに戻るような気がした。






階段の下から抜け出ると、雨はすっかり上がっていた。

夜空に、星が舞う。
静けさを波が攫う。

「……私、あの日の願い事を叶えられるよう、もう一度がんばる」

改めて私がそう告げると、ジョーは満足そうに頷き、サポートすると約束してくれた。

「あの日、ジョーはなんて願ったの?」

見上げた私に、ジョーはキスをした。

「ずっと汐璃と一緒にいられる男になって、ここに戻って来られますように」

そう囁いたジョーの向こうに、星が流れていった。