「そう言い残して、春樹は雪と一緒に消えていきました。」
冬休み明けの生物室。
コポコポと音を立てているのは、アルコールランプで温められたフラスココーヒーだ。
「おかわりするか?」
そしてぶっきらぼうに話すこの男性は、春樹の担任だ。
「先生、信じてないでしょ。」
先生はチラッとあたしを見ると、ビーカーにコーヒーを注いでひとくち口にした。
「別に信じてないわけじゃない。」
「妄想だとか幻覚とか、笑い飛ばしてくれた方が楽なのに。」
先生の反応がいまいちなことに春樹との出来事を話して後悔しだした頃、
「俺も似たようなこと…あったしな。」
背中を向けた先生がそう呟いた。
「先生は、どうやって忘れられたんですか?」
身を乗り出して聞くと、予想外の言葉が返ってきた。
「忘れようとすることを止めた。」
…?
理解できないあたしに、先生はもう一度言った。
「忘れる必要なんてないってことだ。」
「でも、春樹のことを思い出すと苦しくて…」
ほら、またすぐ涙が出てくる。
この涙は一度出るとなかなか止まらないんだ。
「それでいいんだよ。」
先生の大きな手が私の頭に乗せられた。
「あいつのこと、いっぱい思い出して忘れないでいてやれよ。」
「それじゃ辛い…」
「忘れようとするから辛いんだ。お前は、あいつのこと本当に忘れたいのか?」
忘れたくなんかない!!
でも…
「今は気が済むまで泣けばいい。」
先生は春樹と似ている。
ぶっきらぼうな癖に、本当は優しい。
だから春樹は、先生を慕っていたの?

