「…?!」
 僕は、思わず声を失った。
 そこに落ちていたものは、あまりにも島とはかけ離れたものだった。
 人畜無害。危険な要素は何もない。
 ただ、あまりにもここに似つかわしくないもので、僕は自分がパジャマにスリッパという似つかわしくない格好をしているのも忘れて、それを凝視した。
 片方だけのスニーカーだった。
 ナイキのロゴが大きく入った、しかも多分男物の、スニーカーだ。紐が解けて、スニーカーはぐったりしている。
 僕は、空を見上げた。
 無駄に背の高い(そのくせ横幅もでかい)木の上で、紫色のアイシャドウをつけたようなサルが、背中を掻いている。
 彼が落としたのだろうか。
 僕の視線に気づいたのか、サルはきょきょっと変な声でうなってから、いーっと唇をめくって、僕を威嚇した。僕が無反応なため、無害だと判断したのだろうか、またぼりぼりと背中を掻き始めた。
 僕は途方に暮れて、スニーカーを拾い上げた。
 ここには、この島には、誰か住んでいるのだろうか。
 誰か。
 つまり、僕以外の人間が。