お父さんは和斗に好きな人ができたことを喜んでいたけれど、1年間もグズグズしているのだ知ると、途端に怒ったような顔つきになり、和斗を連れて幸せ食堂までやって来た。


ここは静かだし、男同士の話をするのにいいらしい。


店内に聞こえて来るのは波の音だけ。


お店の人は2人に気を使って厨房に引っ込んでくれた。


「和斗、男は勢いが必要だ」


親子丼を頬張りながらお父さんが和斗へ向けてそう言った。


和斗は親子丼の鶏肉ばかりをついばむようにして口に運んでいる。


「勢いって?」


「好きだとか、結婚してくださいとか。そういうのはいくら頭で考えても無駄なんだよ。全部勢いだ」


お父さんはそう言うと、親子丼の残りを一気にかき込んだ。


勢いが必要だと言われても、その勢いをどうやって出せばいいのかわからない。


和斗は見様見真似で親子丼をかき込んでみた。


それは気管に入り、和斗は苦しいほどに咳き込んでしまったのだった。