ここへ来て海鮮丼を頼まないということは、海の近くの人なのかもしれない。


もしかしたら今まで会った事がないだけで近所の人かも。


タエはそんな事を思いながらカウンターへ戻り、厨房へと声をかけた。


厨房では1人のパートさんと今の店主がいて、昼過ぎに入った予想外の注文に慌てている。


タエはカウンターへ戻ると意味もなくガラスコップを洗い始めた。


シンクはカウンターの後ろにあり、軽い洗い物をする時はお客さんに背を向ける形になるのだが、2人の雰囲気が少しだけ張りつめていたので気を利かせたのだ。


「お前はどうして告白できないんだ?」


父親がため息交じりにそう言った。


「だって……」


男の子はそう言ったきり、黙り込んでしまった。


タエは後方を気にしながらも洗い物を続ける。


ピカピカに磨かれたグラスは更に輝きを増していた。