退院して、久し振りに

学校に来た流羽は、

記憶を忘れてる以外は、

何も変わっていなかった。

笑った顔も、照れた顔も、

困った顔も…

他人を思いやる優しさも。

クラスの奴らに囲まれて、

オドオドしてるところも、

何も変わってねー。

放課後、バスケ部の練習中

一生懸命にマネージャー業を

こなす姿を横目に、

俺も練習に集中していた。

たまたま回ってきたボールを

ゴールに叩きつけた時…

マネージャー業をこなしていた

流羽が俺を見て、拍手した。

一瞬、記憶が戻ったのかと

驚いた。

けど、近付いた俺に流羽は言った。

「すごいね、桐生くん。

背中に翼が生えて見えたよ…

すごく綺麗だった」と。

桐生くんか…

やっぱ、そんな簡単に戻る

わけねーよな。

でも、初めて会った時も

同じこと言ってたな。

それを伝えると、

視線を彷徨わせながら、

顔を赤くする流羽に

俺は、笑った。

「ご、ごごめんなさい!」と

謝る姿も、あの時と同じで

俺はまた、笑った。

部活後、校門前で流羽を待つ

俺に付き合ってくれてる大輝。

ってのは、建前で…

どうやら香月を待っているらしい。

いつの間に、そんな関係に

なったんだよ…

また今度じっくり聞いてやろ。

その時、校門にやってきた

流羽と香月。

香月は知っていたのか、

大輝を連れて

さっさと行ってしまって、

流羽はポカンと固まっている。

俺が送ると言っても、

大丈夫と繰り返す流羽に、

俺も負けじと、送るを繰り返した。

結果…

俺の一歩後ろをトコトコと

歩いてついてくる流羽は、

突然、俺の指輪を指して

彼女さんがいるんだねと

尋ねてきた。

お前だよ、流羽…

そう言いたかったけど、

無理に思い出させるのは、

身体に負担になるらしいことを

聞いている俺は、曖昧に返事した。

「いるけど、相手は

そう思ってない」と。

すると、喧嘩してるのか?

どんな人?と尋ねられて、

流羽だよと言ってしまいたい

衝動に駆られたが、グッと堪え

こう答えた。

「どんなことにも一生懸命で、

自分の事より、周りの人間に

優しい…

弱そうに見えて、実は強い

だからこそ守ってやりたい」と。

それを聞いて、流羽は少し

寂しそうな顔をしながらも

きっと大丈夫、伝わってるよと

言った。

そして、もうここでいいと

背を向けて歩き出した流羽に、

俺は我慢出来ずに、腕を取り、

抱き締めてしまった。

離れようとする流羽を、

殊更、強く抱き締めた。

「もう少しだけ、このままで」と

言った俺のワガママを聞いて、

大人しくなった流羽は、

スッと力を抜いて、俺に

身を預けてくれた。

きっと、流羽は、いもしない

彼女と上手くいってない俺を、

可哀想に思って、

こうしてるんだよな?

ほんと、優しいよな…流羽は。

でも、困らせるだけだな。

またいつ、こうして

抱きしめることが

出来るか分からない不安を

抱えたまま、俺は流羽を

腕から離し、謝った。