桐生くんくんに渡すとき…

少し触れてしまった指先の

温もりにわたしはドクドクと

うるさいくらいに

胸に響いた。

気付かれてないよね?

そっと見つめると

優しい眼差しを向けて

笑う桐生くんがいた。

ドクンッ…

「サンキュー、春瀬」

わたしは桐生くんの気持ちに

応えることができないと断り、

更には態度も

失礼極まりないものばかり…

なのに…

どうして、

そんな優しい顔ができるの?

その優しい瞳が、

わたしを一層、苦しめる。

「ううん」

平静を装ってわたしは

席を離れた。

全員に配り終えて、ホッと一息…

「ねえ…流羽の分は?」

その時、璃子から不思議な質問を

投げかけられて、

わたしは首を傾げた。

え…?

わたしの分?

わたしは応援する側なんだし

必要ないよ?

「だって体育祭で頑張るのは

わたしじゃなくて、みんなだから。

それに…

これはみんなの為に

何かしたいって

わたしが勝手に作っただけだから」

わたしの言葉にみんなが一斉に

振り返り固まるのが分かった。

??

なんかおかしい事言ったかな?

「「「えーー!!!」」」

えっ?!

な、なに?!

みんなの大きな叫び声に

今度はわたしが固まってしまった。

聖奈ちゃんが振り返ったまま

「流羽もこのクラスの一員でしょ!

1人だけ着けてないとかっ!!

ありえなーい!!」と、

なぜかプリプリ怒っている。

それはそうなんだけど…

なんで怒られているのかが

分からないよ…

じゃあ、と言って声をあげたのは

桐生くんだった。

「優勝してトロフィーを春瀬に

贈るってのはどう?

春瀬の頑張れって気持ちが

込められたこれを着けて、

春瀬の気持ちに応える。

そんで優勝して春瀬に

『ありがとう』の

気持ちを込めてトロフィーを贈る」

その言葉にみんなが

うんうんと頷いている。

「それ名案!桐生ナイス!!」

「俄然燃えるわね!!」

クラスが一気に盛り上がり始めた。

わたしは、

鳩が豆鉄砲くらった状態で

ポカンと口を開けていた。

そして見守っていた先生から

「よっしゃ!!

明日は絶対優勝するぞ!」

という掛け声に

みんながミサンガを着けた手首を

掲げて人差し指を天井に向けた。

「「「おーー!!!」」」

34人の叫びが教室に大きく響いた。

わたしはその光景に胸が熱くなった。

今までこんな人達に囲まれた経験が

なかったから…

いつも好奇な視線を向けられて

わたしには璃子やホーム以外に

居場所がなかったの。

クラスのお荷物でしかなくて

こういった行事のたび…

『春瀬さんは足が不自由でいいよね』

って。

『楽出来ていいよなぁ…』

って言われてきた。

だから、今この瞬間…

わたしは今までの

悲しみや苦しみが

消えていくのを感じたの。

このクラスの一員になれたこと…

すごく嬉しくて幸せだなぁって思う。

溢れそうな涙を堪えて

わたしは久しぶりに

心から笑えた気がした。

高校に入って、わたしの世界は

モノクロから、色鮮やかな

世界へと変化した。

いつも下ばかり見ていた

わたしに、前を向くことの

大切さと勇気をくれた…

桐生くんと出会ってから

沢山気付けたことがあるよ。

想いを伝えることは

できないけど…

桐生くんと出会って、

好きになれたこと…

わたしは、後悔してないし

忘れない。