たくさん傷つけたけど


俺には……何もないけど



清家さんは俺の良いところを見つけてくれた。



俺は───


貴方に少しでも返したい。



俺が清家さんに近づいて、清家さんが俺に気づく。


安藤も俺に気づいたのか、清家さんを後ろにして俺の前に立つ。



そして、清家さんが全力疾走で逃げ出して、俺が近づけた距離を簡単に離した。



「……」



離すのは簡単なのに、近づくのはこんなにも難しい。


そりゃそうだ。



「清家をもう一回傷つける気か?」


「……っ、俺は」



安藤に聞かれて改めて気づいた。


もう俺には清家さんを想う権利などない。




「……いや、やっぱ何もないや」



それでも、俺は影で想うだけでいいから。



例え清家さんがずっと拒んでも


例え清家さんが安藤を好きになっても



もうこの気持ちを知ってしまった以上、



俺はこの気持ちを手放す時など


訪れたりはしないだろう。