最初に気が付いたのは、たぶん加奈子だった。

あたしと樹里の近くの席で、お弁当を片付けていた千世の肩を揺さぶって「千世、ヤバい!」って教えてたから。


あたしと樹里も加奈子の視線を追って、教室のうしろのドアを見た。

日焼けした顔をのぞかせて、キョロキョロと室内を見回してた越智くんが、千世を見つけて「井原、ちょっといい?」と呼んだ。


それを聞いた教室にいたクラスメイトたちが、千世を見た。

あたしも、千世の顔をうかがった。


色白の千世の頬が真っ赤に染まって、涙目になっていた。

嬉しいのか、恥ずかしいのか、混乱してるのか、緊張してるのか。


予想外の展開に、あたし以上に千世は動揺してるみたいだった。


「千世、呼ばれてるって!」

「あ……う、ん」


加奈子に背中を押され、千世はフラフラと越智くんの待つドアへと向かっていった。

俯きがちな千世に越智くんが小声でなにか話しかけ、ふたりは静かに廊下へと消えていく。


少し遅れてクラスメイト、主に女子の悲鳴みたいな歓声が響き渡った。