「……さっきの、もしかして聞いてた?」

「なにが」

「あの、手紙のこと。あたしがふたりに、やっちゃったこと」


自転車の確認を終えた深月は、両手をパンパンと打ち払って立ち上がる。


振り返った顔はいつも通り、感情の読みにくい無表情だった。

聞かれてたんだと悟る。


深月にはまだ……聞かれたくなかった。

たぶん、軽蔑されたくなかったんだ、あたしは。


口が悪くて、目つきも悪くて、無神経で剣道バカで、でも実はものすごく思いやりに溢れてる深月に、嫌われたくなかったんだ。


「あたし……ほんと、最低なことしたんだよね。ずっと優ちゃんに嘘ついてた。ダメだってわかってたのに、それでも自分のわがままで手紙を隠して、秘密にした。それがどんなにふたりにとってつらいことになるかなんて、想像もしてなかったんだよ」

「……ああ」

「苦しめたい、わけじゃ、なかった。ただ、ただずっと一緒にいたかっただけで……でも、こんな風になって、後悔しても、後悔してもしきれなくって」

「ああ、わかってる」



大きな手が伸びてくる。

壊れ物を扱うみたいに、そっと後頭部を引き寄せられて。


嗅ぎ慣れた、汗のにおいに包まれた。