「ごめん歩! あとお願い!」

「え? あ、え、ちょ……嘘でしょ!?」


突然押し付けられた手紙に呆然としているうちに、押し付けてきた張本人の友だちは、廊下の遥か向こうへと走り去ってしまっていた。

静かな廊下に残されたのは、あたしと……手紙を渡される予定だった男子生徒。


なにこの状況。信じられない。



「え、えーと」


自然とその男子生徒と顔を見合わせる羽目になって、浮かべた愛想笑いも引きつった。


この人、なんて名前だったっけ。

確か3年の、山、山、やま……ナントカ先輩。


ダメだ全然思い出せない。

さっき走って行ってしまった加奈子が、いつもうんざりするくらい繰り返し口にしていた名前なのに。

山ナントカ先輩かっこいい~!
山ナントカ先輩に抱かれたい~! って。


まあ実際は抱かれるどころか、ラブレターひとつ渡せずに逃げ出してしまったんだけど。